<< パンツを穿くワイン >>
GINZA CLUB CHICKソムリエ 加藤 健
こんにちは、銀座クラブチック ソムリエの加藤です。ワインのある暮らし、楽しんでいらっしゃいますか?
さて、今回はワインを“入れるもの”についてのお話です。
皆さんはワインボトルの底にある大きなくぼみに気づいたことはありませんか?あのくぼみのことを英語でPunts(パンツ、またはパント)と呼びます。ではボトルはなぜパンツを穿いているのでしょうか?
実は注ぐ時に澱が舞い上がりにくくするためにあるんです。赤ワインは長く熟成させているとワイン中のタンニンや色素成分が溶け込みきれなくなり、細かい澱としてワインの中に沈澱してくることがあります。
澱は特に身体に悪いものではないのですが、ざらつきが味わいを損ねることがあります。なのでその澱がグラスの中に入り込まないようパンツの中に溜まるようにしているのです。
私たちソムリエはある程度ヴィンテージが古くなったワインをサーブする時、澱がグラスに入り込まないようにするためにワインボトルを静かに扱い、注ぐ時にも注意を払っています。なので残り1/8から1/9、 パンツに近い位置になるとグラスに注ぐのを敢えてストップします。決して残りを注ぎ忘れているわけではありません。
澱は澱でぶどうの産物でありワインが造られる過程を感じることのできるものなので、 ソムリエは敢えて澱の残った部分をテイスティングしてみたりもします。もしちょっと澱を感じてみたくなったら、ぜひソムリエに一言お申し付けください。
澱が多く沈澱している古いヴィンテージで、召しあがるワインが高額なものである場合、あらかじめ別の容器に移すデキャンタージュを行い、完全に澱を取り除くこともあります。蝋燭の灯りで瓶のネックの部分を確認しながら慎重にワインをデキャンターに移していく様子はなかなか見応えのある光景です。
ちなみに古くて高額であればなんでもデキャンタージュするわけではなく、極端に古いヴィンテージのワインは逆にデリケートな香りが飛んでしまうため敢えて瓶から直接サーブしたりします。
難しいですね。ここら辺の判断はソムリエの経験に基づいて行われますが、事前にお客様に説明させていただいたり確認したりするのでその際にはソムリエの声に耳を傾けてみてください。
実は若いワインでも、まだ硬いワインを空気に触れさせて香りを開かせ、味わいを柔らかくするためにデキャンターに移し替えることがあります。 一見同じ取り扱いに見えますが、ソムリエはこれをデキャンタージュではなくトランスバーゼ、英語でエアレーションと呼んでいます。トランスバーゼもまたやればいいというものではなく、
そのワインの造り方や品種やタイプ、そのヴィンテージのブドウの出来具合、若さなどによって判断します。ちなみにトランスバーゼはデキャンタージュとは違い一滴も残さず一気に移し替えていきます。ワインの香りがフワッと広がる瞬間を体感してみてくださいね。
最後にグラスのお話を少しだけ。実はワイングラスには様々な形があり、シャンパーニュ、ボルドー、ブルゴーニュといったワインのタイプに合った形のグラスを使用しています。 細かくお話しすると長くなるのでまた別の機会に譲りますが、
そんなところにも気配りがされていることを知っていただくとワインの味わいもまた一段と深くなって来ると思いますので、ぜひ頭の片隅に置いておいてください。
いずれにしてもソムリエはお客さまとの距離感が近くなる程サービスすることが楽しくなり、色々なご提案ができるようになります。ソムリエがお近くを通った際にはぜひとも気軽にお声がけいただき、ご縁を深めていただければ何よりです。
長くなりましたが最後までお付き合いいただきありがとうございました。それでは、今夜も皆様のお越しを心よりお待ちしております!