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THE SUITEソムリエ 鈴木 昌武
皆さん、こんにちは。チックグループ完全会員制プライベートサロン『THE SUITE』ソムリエの鈴木です。
今回は、“右岸”の代表的な産地「ポムロール」。
ボルドー赤ワインのメジャー産地の中でも、比較的新しい歴史、格付制度もなく、産地としての広さや、生産者ごとの栽培面積も小さいながらも、今やボルドーで最も高価なワインを産み出す産地です。
同じく右岸の雄であるサンテミリオンの北西隣に位置し、面積はそのサンテミリオンの約7分の1。
ポイヤックなどの上級シャトーでは数十万本クラスに対して、シャトーごとの生産量も年産数万本程度の所が多く、世界の著名な評論家がこぞって最上の評価を与え、ボルドーで最も高く取引される「シャトー・ル・パン」は、年間約7,000本の少量生産。
ポイヤックのような豪華なお城があるシャトーは殆ど存在せず、ワインを造る小屋と倉庫のような小規模な施設が建ち並び、先入観無しではここが世界中のワインラヴァーが憧れる高級ボルドーワインの産地であるとはイメージしにくいほど。
ポムロールの土壌は全般的には砂利混じりの粘土や砂。
サンテミリオンのシュヴァル・ブランやフィジャックにほど近い、サンテミリオン境界近くのエリアは粘土質が多く、評価の高いシャトーはこの粘土質が多いエリアに数多くあります。
また、粘土質の土壌の下には、「クラス・ド・フェール(鉄の垢)」と言われる鉄の酸化物があり、これがワインに厚みとトリュフを連想させる妖艶な香りをもたらします。
一部カベルネ・ソーヴィニヨン種も見られますが、割合は非常に少なく、メルロー種を主体とし、カベルネ・フラン種をブレンドして造られます。
メルローはカベルネ・ソーヴィニヨンに比べて、タンニンが柔らかく、果実味があることから、比較的飲みやすさがあります。その為、飲み頃に達するまでも早く、一般的なワインであれば5年程度飲み頃を迎えます。
サンテミリオンと同様に、1855年の格付けでは無視される格好となったポムロール。左岸にあるボルドーの中心であるボルドー市から離れており、交通網が整っていない当時、メドックやグラーヴに比べて、ボルドーワインの一大消費国であるイギリスへの輸出は困難であったため、
イギリス向けの輸出を最重視していたボルドーのブローカー達が中心に制定された格付けでは、商売に繋がらないポムロールのワインは無視されていましたが、1980年代に入り、世界的ワイン評論家として頭角を表したロバート・パーカー氏が大絶賛をしたことから、ペトリュスを筆頭としたポムロルの人気が一気に高まります。
その評価はメドックの5大シャトーに匹敵、もしくはそれを上回るものだったため、生産量の少なさも相まって、ボルドーで最も高価な赤ワインとしてその地位を築き上げていきました。
ポムロールの赤ワインは繊細でありながら豊満、しっかりとした酸とコクがあり、濃密でシルクのようにエレガントなタイプに仕上がり、メドックのワインよりもタンニン分が少なく滑らかな口当たりが特徴です。
上質な和牛を使ったステーキやクラス・ド・フェールによるトリュフを思わせる熟成香とキノコの持つ大地を思わせるような風味とぴったりと合います。メルローにはチョコレートを思わせる風味がありますので、デザートにポムロールとビターチョコの組み合わせを楽しんでみてはいかがでしょうか。