ワインの「甘さ」の正体

一般的に白ワインには甘口、辛口とありますが、赤ワインでは甘口、辛口といった表現がされることはありません。
（甘口のポートワインやシェリーといった酒精強化タイプなどで残糖分の多いものには使います。）

ところが、辛口の渋みのある赤ワインを「甘い香りがする」といった表現をすることが特に女性に多くあります。
これは、プロフェッショナルテイスティングのルールに則ると、赤ワインに「甘い」というとネガティブな表現となってしまいますが、「感じ方」「捉え方」としては、決して間違ってはいません。

ワインに精通している人でも、「良いワインだけど、個人的には甘すぎるな」などの感想にはよく出会います。
私自身も状況によっては、「ほのかに甘味を感じて頂けるワインです。」と説明させて頂くこともあります。

赤ワインは、酵母が果汁の糖分を使い切った状態（完全発酵）なので、糖分量に換算すると、1リットルあたりの残糖値が2～6ｇ程度で、この値だと人間は甘みを感知しないそうです。

では、何故赤ワインにはないはずの“甘味”を感じることがあるでしょうか？

その甘みの正体は、アルコールとグリセリンによるものと長らく認識されていましたが、近年では、研究者たちが異議を唱え、その正体を掴むべく化学的な研究が現在も行われていて、その一つが、木樽から抽出される、ＱＴＴ（クエルコトリテルペノシド）とよばれる成分や、ココナッツのような香りのメチルオクタラクトンやバニリンが主な原因と考えられています。

特に、バニリンは、その名の通りバニラの香りなので、バニラアイス、シュークリーム、カスタードプリンなどなど、バニラの香り＝甘いお菓子の印象によって、脳が反応してしまうと言われています。

そして、フレンチオークよりもアメリカンオークで樽熟成したワインの方が、より「甘い」風味が強くつき、古樽よりも新樽を用いたものからは、より甘い香りがしっかりと感じられます。

専門的な仕事としてのテイスティングにおいては、香りと味覚要素は別々に捉えてコメントしていくのがセオリーなので、香りによる影響を極力排除することで、より正確に分析することができますが、例えばレモンと言われれば、「酸っぱい」「酸味がある」と準備をして、反射的に唾が出てきて、舌もその準備に入ってしまうのが人間というものです。（笑）

このように香りや過去の経験による印象は絶大で、よく熟した果物の香り、花の香りは、甘さを連想させ、イメージによって「甘い」と感じることになります。

もともと、脳が感知した情報に人間は大きく影響を受けるもので、ということはよく知られており、脳が「酸っぱいものの香りだ」と感知すると、反射的に唾が出てきて、「酸味がある」と味覚も準備してしまいます。

嗅覚の男女差については、女性の方が良い、男性の方が良い、変わらないと諸説ありますが、ソムリエとしての経験から言わせて頂くと、多くの女性は赤ワインを「甘くて美味しい飲み物」としてスタートしますが、男性は「渋くて飲みにくい飲み物」でスタートする人が多いように感じます。

その点から、女性の方が、花やスイーツなどの甘い香りに触れる機会や関心が高く、ワインの“甘み”と感じられる要素に通じる香りに男性よりも馴染みが深いのが要因なのではないかと個人的には思っています。

五感で感じるも良し、科学的に分析するも良し、脳が騙されるのもワインの楽しさであり、面白さなのではないかと思いますので、ご自身のフィーリングでワインと向き合って楽しんで下さい！