映画の中のワイン・第７６章

『死刑台のエレベーター』を観ました。1958年公開の映画です。
今、観てもよく出来た作品だと思います。

ノエル・カレフの推理小説を、制作当時25歳だったルイ・マルが監督した傑作サスペンスです。

パリの土地開発会社の重役ジュリアンは、その会社の社長夫人フロランスと不倫関係にあった。
情事の果て、二人は社長を自殺に見せかけて殺す完全犯罪を計画し、実行に移すが、犯行直後、会社のエレベーターが停電で止まり、ジュリアンが閉じ込められてしまう・・・。

出演は、ジャンヌ・モロー、モーリス・ロネ、リノ・バンチュラ。
音楽にマイルス・デイビス。

たった一年の現場経験しかない新人監督がいきなり長編デビュー。
しかも、有名スターやミュージシャンを起用できたのは、ルイ・マイが大実業家の富豪の息子であり、父親から莫大な援助によって実現したというのは有名な話ですが、そんなことは抜きにして、これほど音と画の調和が全編に渡って整った作品も珍しく、その鋭い映像感覚はあまりにも衝撃的です。

また、『死刑台のエレベーター』は、三楽章の音楽に見立てて作ったとも言われていて、ジャンヌ・モロー、モーリス・ロネ、若いカップルという三者の時間の流れで決して出会わない関係でありながら、マイルス・デイビスの静と動を使い分けたトランペットがそれぞれの登場人物の心象風景を繋げていきます。

この映画の中にシャンパーニュのコルクを抜くところが出てきます。

しかもその音が問題で、会社が終わった後、社長室へ忍び込んで不運にも戻れなくなった主人公の路上駐車した車を盗んだ若い男女が、モーテルで金持ちのドイツ人夫婦と知り合う。

夕食の時、ドイツ人はシャンパンを音をたてて開けて、「大戦中、飲めなかったシャンパンだ」と泡の溢れるそれを若者にもすすめる。

だが彼は「コルクの音でつい思い出してしまう。インドシナの戦場をね。」と断る。
それは年齢を偽る嘘で、そしてその嘘が殺人を招く事になります。

シャンパンのコルクを抜く音を銃声に例える話は多い。
しかし、嘘であっても戦場を思い出すからとシャンパンを断るのは面白いですね。

ただ、シャンパンの正しいコルクの開けた方は、音をさせない事なんですよね。
サイレンサー消音拳銃を撃つ要領ですか・・・。（笑）