トリフォン・ザレザン（聖トリフォンの日）

「ワインの日」と言うと、カトリックの国々では4世紀にスペイン・バレンシアで殉教したサラゴサ生まれの「聖ヴィンセント（サン・ヴァンサン）の日」が有名です。

ぶどう栽培家の守護神“サン・ヴァンサン”を祭る催しが、ブルゴーニュの村持ち回りで開催されていますが、ブルガリアでは、2月14日が「トリフォン・ザレザン」と呼ばれ、ぶどうの守護聖人・聖トリフォンを祭る日、すなわちワインの日となっています。

トリフォンはぶどう職人であり、熱心なキリスト教徒で、17歳の時、神の啓示によってローマ皇帝の愛娘の病気を奇跡的に治したことにより引き立てられます。

しかし、古代信仰を強要するローマ皇帝デキウスの時代になると迫害を受け、紀元251年に殉教したと言われています。

優れたぶどう職人であり、熱心なキリスト教徒だったトリフォンは、ブルガリア正教のイコンに描かれています。
右手にクロスを、左手には枝を切る為の鎌を掲げた姿が描かれ、ぶどうの守護聖人及び豊穣のシンボルとして今も崇められています。

「ザレザン」は切ることを意味し、この日は春の到来と豊作を祈願して、一年の始まりとしてぶどうを剪定する儀式を行う日となっています。

女性は、早朝からぶどうの実の形や肥沃な大地を表す丸い形のパンを焼いたり、祝いの鶏の丸焼きを作り、色あざやかな織物の袋にそれらの料理を詰め、ブクリッツァと呼ばれる木の水筒に赤ワインを用意し畑へと向かいます。

男達は畑に出かけ、古来からの酒の神ディオニュソス信仰に由来すると言われるこの儀式を行います。

まず太陽に向かって十字架を三回かざし、剪定を始めます。
そして、剪定された最初の三本の枝の切り口にワインと聖水をかけ、灰で清め、秋の豊作を祈ります。

長らく冬の眠りについていたぶどう畑にとって、この日は春を告げる最初の日とも言えます。
冬の間に伸びた枝をはらう事で樹々の隅々にまで力がみなぎり、新しい年の収穫が一層豊穣になるよう準備が始まります。

2月14日といえば、ヴァレンタイン・デーとしてお馴染みですが、こちらも起源を辿ると、3世紀のローマに辿り着きます。

当時のローマ皇帝クラウディウス二世が、戦場に出たがらない若い兵士達に業を煮やしていました。
恋人や家族の存在が士気の低下を招いていると懸念した皇帝は、若者達の結婚を禁止します。

そんな状況を不憫に思った司祭ヴァレンティヌスは、皇帝の命令に背いて恋人達の結婚を秘密で取り持ちました。結果、彼は投獄され処刑されてしまいます。

その日が、西暦296年2月14日であったと言われ、その後200年経って名誉回復がなされ、ヴァレンティヌスは、恋人と結婚の守護聖人として名を残すことになります。

トリフォン・ザレザンでは、前年にいちばんの収穫を得たぶどう農家の主人は「王様」と呼ばれ、その年の王のもとに村人達が集い、飲んで食べて豊かな実りを皆で願うのが古来からのしきたりとなっています。

風は冷たく冬はまだまだ続きますが、春は確実に訪れようとしています。

聖ヴァレンティヌスと聖トリフォンの両聖人の思いを想像しながら、皆さんもぜひ気の合うお仲間や大切な人とワインで素敵な時間をお過ごし下さい！