味覚のしくみ
六本木クラブチック
ソムリエ 平野 光志
先日、あるお客様から「ワインもそうだが、料理の味覚についてまったく何もわからない。どうすればいい?」と質問されました。
私は、「でも美味しいとは感じているんですよね」と尋ねました。
すると、「それはわかる」と言われます。
「美味しいとわかるだけで十分じゃないですか」「それでいいの?」「はい」
お客様はそれ以上何も言われなかったのでその時の会話はそこで終わりましたが、味覚は驚くほど複雑な仕組みをしています。
「甘味」は、糖に反応し、その食品が消化しやすいエネルギー源であることを知らせる。
「酸味」は、酸味受容体が果物の酸を感知するビタミンC(アスコルビン酸)が含まれている証拠か、あるいは食物が腐りかけていることを知らせる。
「塩味」は、塩味受容体は塩に含まれるナトリウムに反応。ナトリウムは体内の塩分バランスを保つために重要な物質です。
「苦味」は、体に害となる可能性の高いさまざまな天然毒性物質に反応して、体に危険な食品である事を知らせる。
「うま味」は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸の刺激を受けて、風味の良い肉料理の味を感知します。アミノ酸があれば、食品にたんぱく質が含まれることになります。
「脂味」は、この10年ほどの研究によって、味細胞が食品に含まれる脂肪分子を感知し、その食品がエネルギーを豊富に含むことを知らせることが分かってきました。
このように6つの味覚受容体があり、刺激されるとそのメッセージはいくつもの神経を通って脳に届きます。
少し前までの定説では、舌は場所によって感じる味が異なると言われていました。
1901年にドイツのへーニック博士が、舌は部位によって強く感じる味が異なるという説を発表し、この研究をもとに、20世紀初旬には「味覚地図」が作られたのですが、現在ではすべての味が舌全体で感知されていて、場所による感じ方の違いは無視できる程度だと言われています。
ただし、それぞれの閾値が舌のどのエリアでも等しいとは限りませんので、「味覚地図」を過去の遺物と否定してしまうよりは、未だ完全には解明されていない味覚の謎を探索しながら、食事やお酒を楽しんでみるのも面白い!